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​野原

京都

山村の古き家にて生を営む
長い旅路の途上で出会う織布や動物革を用いて
日々を供にする道具や飾りの製作を行う

昨年秋に長野県から京都は北部の山深い所、静かでささやかな集落に居を移した野原の健司君、奥さんの野原ちゃんを訪ねて来ました。


新たな場所は隠れ里だけあり、山道をぐんぐんと進んだ先、程よく広がり、大きな山が並ぶ美しい土地にありました。
 

暮らす場所が変わり、ごく自然と変化した事や物作りの事、暮らしの事など様々な話をお互いにし、今の野原を感じて来ました。

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言語でとらえられない

「今年に入って、言語で捉えられなくなっている。」

 

健司君から突然こんな言葉が出てきました。

様々な事を伝えたり共有したりする上で、人は言語を使ってそれらを行う事が多いけれど、今の健司君は、言語で捉えきれない、言語で収まりきらない何かを感じ、日々を生きている様でした。

それは、より繊細に解像度高く、自分自身の心の機微や日々の生活、側にある環境に身体の細胞が反応していて、その全てを言語の中に収める事など出来ない、様々な何かを肉体全部で感じながら生きている状態。

VOL.02   exhibition「風生山衣」取材より 2022年6月

「こうしようとか、ああしようとかが無い。もっと本能的に動いている。」

健司君からはこんな言葉もポツリと出て来ました。

よりシンプルに、彼にとって余計な事が省かれた状態、本当に必要な要素だけで今生きているからこそ、細やかな何かや、ここにある何げない日常の煌めきや豊かさ、そんな日々に広がる風景への感度が以前にも増して上がっている状態なのかなと、私は彼とコミュニケーションをとる中で感じました。

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服作りのはじまり

今まで野原作品といえば、鞄や財布に手刺繍、装身具などの小物制作のイメージが強く、服作りを全面にした作品の発表は表立ってしてきませんでした。

ここに来て、服作りを始めた健司君。

「今までも、野原(奥さん)の服を作ったりは時々していたけど、こんなに服作りを第一に考える様になるとは思っていなかった。そこの部分が本当に変化した事。」そう語ってくれた健司君。

 

今、彼の意識の中で服を作るという気持ちが大きく芽生えているのです。

「自分で賄った服で暮らすって、また違った感覚で、しっかりと根が生えた感じがする。」

彼が話すこの言葉は、物に宿るエネルギーが私達にもたらす影響の大きさを、語っていると思うのです。

私達の身体を包む服、肌に直接触れる服に宿るエネルギーは、食と同様、人を作る一つの要素だなと感じます。私達が生きていく上で絶対的に必要な服。その服を自分で賄い暮らす日々の感覚は、彼にとって確実に自分自身を労り、大切にし、自分の中の調和を保ってくれる、一つの大きな要素になっていると思うのです。

健司君自身がとても大切にしている、"心地よく過ごす"それを体現した服作りが今、野原の表現として始まったのです。

 

この始まりの時を是非、目撃して頂きたいです。

野原の作り出す物達には、人の心を豊かにする力があると信じています。そして、今でしかない生まれたばかりの美しさがあると思うのです。

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素材と向き合う

野原の服は、素材である布が既に手仕事の様な物ばかりで作られています。

それは、少数民族の村で育てられた綿を手紡ぎ、手織りされた布だったり、野蚕が紡がれ手織りされた布だったり、力を感じる布ばかりが選ばれていて、どうやってその素材に辿り着いているのか不思議なほど、特別な物ばかりです。

当の本人は「縁があると感じる布。」と、さらっと答えていたけれど、どれもこれもこの現代に奇跡の様に存在している布ばかり。たしかに、縁がなければ手に入らないなと、納得させられます。

 

そして、健司君はその素材(布)への敬意、自然物への敬意、作り出した人達への敬意をしっかりと持っている人です。

だからか、野原の服は極力余計な端切れが出ない、直線的な裁断で作られている物ばかりです。そして、人が日々使うという事が、しっかり意識され作られている。素材(布)への敬意と愛情を感じます。

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また、この様な服作りに辿り着いたのは、野原という屋号で制作する以前、アジアを旅して出会った民族服に影響を受けた事も大きい様です。

それは、ただ服の形を追っただけの影響ではなく、彼らが自ら綿を栽培し、紡ぎ、糸を作り出し、一本一本の糸を織り出来上がる布のストーリーだったり、民族服が生まれた時代や、今もその民族服が暮らしの中にある人達に宿る、精神性の中にみる美しさにこそ感銘し、影響を受けているのです。

野原の服は、素材(布)と深く向き合い、その素材(布)の力を只々引き出し寄り添う、"こんな形にしてやりたい"だとか、そういった気負いが一切無い、愛情の中にある服だと感じます。

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愛情

愛情とは何処からともなく湧くのだろうか?

愛などと簡単に語れるもので無い事は、自分なりに分かっているつもりだけれど、野原の二人が暮らす風景の中には、その愛情という名の手では掴めないものが溢れていました。

静かな山深い集落の中、山の音や鳥や虫の鳴き声、作業の傍ら聞こえて来る野原ちゃんの生活音、新たに家族になった二匹の猫達や、この地に共にやって来た山羊のタパの息遣い、そんな生命と共にある暮らし、その全てと寄り添い、分かち合い育まれる生活。

そんな暮らしの中から野原作品は生まれています。特別な何かではない、日常にこそ愛おしい煌めきが散りばめられている。その事を見逃さず、大切にする。

愛情とは、そんなささやかな積み重ねで、気づいた時には既に側にある、そんなものなのかもしれません。

VOL.02   exhibition「風生山衣」取材より 2022年6月

七夕、7日から始まる展示「風生山衣」は、健司君野原ちゃんの二人で在廊日に在廊して下さいます。

彼らの愛に包まれている作品達、空間に是非触れて頂きたいです。

どうぞ宜しくお願いします。

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photo | Ayaka Onishi

exhibition

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野原 「風生山衣」

2022. 07. 07 thu  -  07. 18 mon

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