彼女の木彫作品に初めて触れた時、形の奥の方から音が聴こえた様な気がした。
次第にそこには風が流れ始め、風景が現れた。
そして、作品達から始まる物語が空間に無限に広がり、気づけばこちらがすっかり世界に入り込んでいる。
exhibition「anima pulsus」取材より 2023年1月
一瞬で目の前に在る存在に魅了された事を今でも鮮明に覚えています。
うまのはなむけ、かんちゃんが木彫に出会うまでの話や日々の暮らし、アトリエでの制作風景など、共に時間を過ごし感じた事、今展示で表現したい事など伺ってきました。
彼女の人と成りを、少しでも作品達と共にお伝えする事が出来ればと想います。
木彫に出会うまで
幼い時から絵を描く事が好きで、小学生の時には、すでに実際に在る物を立体的に捉え描いていたとの事。
「趣味はデッサン!」と言うほど、とにかく何を見ても描く視点で物を見、立体を追求し、紙の上にいかに本物を存在させられるか、そんな事ばかり考え描いていたと彼女は言います。そんな日々は小学生から始まり、中学、高校と続いていきます。そして、大学では教育学部美術教育へ入学し、そこでも描く道を進んで行きます。
当時から相当な腕前のあった彼女は、大学内の大人達から、絵画の世界での成功を期待され、型にはまった道筋を促される様になるのです。そんな大人達の声に、いつしか不自由さを感じ、あんなに好きだった絵を描く事自体に、楽しさを見出せなくなっていったと言います。
そんな時に、絵画から離れて違う表現をやってみたいという想いで彫刻を専攻し、立体表現を学ぶ中で木彫に出会い制作し始めるのです。立体を描くのではなく、木を削り、形を浮かびあがらせる木彫表現は、彼女にとってとても自由で、無限の可能性を感じさせてくれたのです。
「絵では実際に存在する物を描く事が好きだったけれど、木彫は実際に無い物でも想像して形に出来た。木彫に出会い自由になれた。」彼女は言います。
この様な道筋で、今も木彫表現をし続ける彼女の作品には、今にも動き出し鼓動が聴こえて来そうなリアリティー、現実的な世界と、ファンタジーな空想や幻想的な世界、相反する世界が絶妙なバランスで存在している。この独自な世界観に私は引き込まれ、一目見て魅了されたのです。
天賦の才
彼女が制作に使う樹、そのほとんどは仕入れたものではなく、自然と手元に集まって来た物だそう。本当に必要な物や事は自然と側にやってくる。かんちゃんが選んでいる様で選ばれている。
相思相愛の関係とでも言うのでしょうか?!
うまのはなむけ作品を見ていると、樹や様々な生命は、生まれ、生き、死ぬ、還る場所を知っている様に感じるのです。
彼女が作り出す存在に直接触れ、鑑賞していると、"天賦の才"とは正にこの事だと感じるのです。そして、木彫表現で作品を作り続け、残していける人だと、そんな風に私は想うのです。
眼差し
今展示のための取材に伺った際、大きく感じた事の一つに、愛犬クルフィーとの暮らしが彼女にもたらす影響の大きさでした。
優しい眼差しで見つめる先にはクルフィーが居り、またクルフィーの無邪気で透明な眼差しの先にもかんちゃんが居る。人間と動物という枠を超え、家族である関係を築く事になる出会い。その出会いから、生命の不思議や魂の繋がりといった事に想いを馳せる。
「分からないから形にしたい」そんな事を話してくれたかんちゃん。
そして日常や生活、生き方、作り手である人間がどうしようもなく作品に滲み出る。それが作家の作品であり、仕事だと思うのです。
彼女から生まれる動物や人物の木彫作品は、どれも瞳が印象的で、愛らしく強く優しい、とても自然で違和感がない、嘘偽りのない瞳をしている。そこには合わせ鏡の様に、彼女が生命に向ける眼差しを見ている様に感じるのです。そして、彼女の生み出す作品には生命への愛情が内包されている、そう感じるのです。
exhibition「anima pulsus」取材より 2023年1月
約3年ほど前に展示のお願いをし、やっと実現する今展、
umanohanamuke「anima pulsus」。
animaは、animal(動物)の語源で"生命・魂"という意味があり、pulusは、脈・脈々と続いてきた命の誕生と終わり・記憶や時間。目の前の存在の鼓動に触れる事。
今、彼女が感じるこれらに想いを巡らせ、生まれる作品達に、是非直接触れて頂きたい想いです。そこにはどんな世界が広がるのか?見る者によって、様々な物語が無限に広がる事と思います。
とてもリアリティーが在り、幻想的で美しい世界、うまのはなむけの世界に、是非出会いにいらして下さい。